2020年8月1日から5日までの間,オンラインにて開催された,ACM/IEEE Joint Conference on Digital Libraries (JCDL) 2020に参加してきました.JCDLは,デジタルライブラリに関する主要な国際会議です.一般的な計算機科学の国際会議との大きな違いは,研究者・技術者以外に図書館員の方も参加されているのが特徴的です.デジタルライブラリというと図書館をイメージしますが,JCDLでは情報検索やデータマイニング,HCI,デジタルヒューマニティーズ,インターネットプライバシなど,情報アクセスシステムの理論と実践にかかるトピックを幅広くカバーしています.
JCDL 2020は,当初6月中旬に中国は武漢で開催される予定でした.しかし,COVID-19の影響を受け,開催地がいったんは西安に変更され,最終的にはオンライン開催になりました.例年JCDLは北米,ヨーロッパ,アジアと世界中の様々な国から参加者が集まりますが,今年度は発表件数はFull paperが33件(採択率31%),Short paperが28件(採択率31%),ポスター・デモが48件とそれほど規模が大きくなかったため,実行委員会の配慮で地域ごとにセッションがまとめられました.そのおかげで,日中の時間帯に自身の発表が行うことができ,肉体的には楽でした.一方で,ヨーロッパや北米の方の発表の多くは,ヨーロッパ時間・北米時間の日中(日本時刻で深夜・早朝)に行われていたため,積極的に聴講することはなかなか難しかったです.オンラインでの学会開催の難しさを感じました.
本年度のJCDLは,以下のようなセッションがありました:Scholarly Communication,User in Search,Digital Libraries,Scholarly Knowledge,Document Classification,Natural Language Processing,Web Archive,Digital Humanities,Domain Specific Applications,Scholarly Data,Content Annotation,Search and Recommendation,Network and Learning,Neural Semantic Representation, Practitioner.ご覧の通り,幅広いトピックについて研究発表が行われたのですが,科学技術論文のコンテンツ・ネットワーク解析による知識獲得セッション(Scholarly X)が複数あることに目を引かれました.また,図書館員の方々が実践報告を行うPractitionerセッションにデジタルライブラリの学会らしさが感じられました.
私はUser in Searchというセッションで,下記発表を行いました:
Yusuke Yamamoto and Takehiro Yamamoto: “Personalization Finder: A Search Interface for Identifying and Self-controlling Web Search Personalization”. https://doi.org/10.1145/3383583.3398519
この研究では,ウェブ検索中のユーザがウェブ検索結果のパーソナライゼーションの影響を認識し,調整することを可能とする検索インタフェース“Personalization Finder”を提案しました.私の研究グループが事前に行ったユーザ意識調査では,ウェブ検索ユーザの多くは,意見の分極化の原因になりうるウェブ検索結果のパーソナライゼーションが政治トピックに対して行われることを懸念していることが明らかになりました.その一方,一般的なウェブ検索エンジンでは政治トピックに対する検索結果パーソナライゼーションが行われているにも関わらず,多くのユーザがそのようなパーソナライゼーションはあまり行われていないと思っていることも明らかになりました.この結果を踏まえ,自身が閲覧しているウェブ検索結果リストのうちパーソナライズされている結果をあえて可視化し,パーソナライゼーションによって逆に見えなくなってしまった結果を確認できるインタフェースを設計し,それらがユーザの検索行動に与える影響を分析しました.ユーザ実験の結果,特に政治トピックの検索時において,提案インタフェースを用いると,ユーザは客観的に情報を収集するべく,検索結果リストをより長く閲覧するようになり,より下位の検索結果を閲覧するようになることを明らかにしました.幸運なことに,本論文はBest Paper Awardに選ばれました.
JCDL2020に参加報告の執筆依頼をいただいた際,トップカンファレンスに採録されるための工夫・苦労した点について記してほしいとのご要望をいただきました.採録のための秘訣についてはこれまでも優れた研究者の方々が語ってくださっていますし,私自身はそれを語れるほどの経験はありません.ですので,大層なことは言えませんが,「不採択を恐れずトップカンファレンスに論文を投稿して,査読者から有益なフィードバックをもらうこと」は有効だと思います.
トップカンファレンスは査読者の質も相対的に高いため,論文を改善したり,研究をより良い方向に進めるために有益なフィードバックがたくさん得られます.実は今回の採択された論文は, ACM CHIという別のトップカンファレンスに投稿して不採択になった論文をブラッシュアップして再投稿したものです.レビューコメントは大変痛烈で,不採録判定による傷心状態で読むのは気が滅入ります.しかし,数日寝かせて読み直すと,どのコメントも鋭く的を得ているものばかりでした.それを改善すれば確実に研究が進展します.おかげさまで,レビューで指摘された穴を一個一個つぶしてアップデートした論文は,JCDL 2020に採択されました.不採録通知を受け取ることはショックですが,採択率からすると大抵のひとにとって不採録はデフォルトです.良質なレビューコメントをもらって論文と研究をアップデートし,めげずに投稿し続けることが,ターゲットとする国際会議に論文を通す近道だと,リジェクトの結果に凹んでは自分に言い聞かせています.