名古屋市立大学データサイエンス学部で開講している講義「グラフ分析入門(データマイニング後半パート)」の講義資料を下記URLに公開しました.ご関心のある方はご活用ください.
カテゴリー: education
生成的情報検索時代における学生の振るまい方
学部学生向けに行っているオムニバス講義で,生成AIを用いた調べ物をするレポート課題を出題した.元ネタは(たしか京都大学だったと思うが)ソーシャルメディア上で見かけたアイデア.出題内容の詳細は以下の画像の通りなのだが,最終的な回答は学生ではなくChatGPTが生成することになっている.学生ができることは,ChatGPTへの質問の工夫,およびChatGPTが生成した回答の良し悪しの判断である.この課題のポイントは,ChatGPTが流暢な回答をしたとしても,ちゃんと自分の目で品質をチェックすることにある.
さて,採点結果なのだが,思っていた以上に無批判にChatGPTを使う学生が多かった.以下は学生に伝えたレポートの講評である(一部内容を修正/削除している).今の学生の振るまい,山本の意見に興味のある方は,以下を読んでください.
学生の回答傾向
提出された回答について,正答率は32.8%(67.2%は誤答)でした.
(正解か不正解かに関わらず)60% の学生はChatGPTへの質問に何らかの工夫を行っていました.一方,40%の人は,与えられた課題内容「合理的利他主義とは何ですか?」をそのままChatGPTに投げ込んでいました.以下は,学生の皆さんがChatGPTに質問を投げる際に行った工夫の分類です.
- 工夫なし(設問内容をそのまま入力)
- 参考文献や回答の出典の明示を指示
- Chain of Thought(プロンプトエンジニアリングの1つ)を使った思考を指示
- 「信頼できる根拠」の明示を指示
- ウェブから「間違いのない情報」を探すよう指示
- 「絶対に正しい回答」を提示するよう指示
提出された回答からは詳細な思考プロセスまで読み取れませんでしたが,正解にたどり着いた学生さんは,少なくともChatGPTに対して複数回質問したり,質問の工夫をしたり,ChatGPTが提示した文献を閲覧していた様子は見受けられました.
合理的利他主義とは何か?
合理的利他主義(rational altruism)とは,フランスの経済学者ジャック・アタリが提唱した比較的新しい概念です.一般に,利己主義は「自分の利益を優先」して行動しようとする考え方,利他主義は「他人の利益を優先」して行動しようとする考え方です.となれば,合理的な利他主義は,他人の利益を「合理的に」優先して行動しようとする考え方,あるいは他人の利益を優先して「合理的に」行動しようとする考え方などが思い浮かびますが,アタリが提唱した合理的利他主義はもう少し踏み込んでいます.
アタリは合理的利他主義を「利他的な行動を追求することが,実は長期的には自己の利益になると合理的に考え,行動しようとする考え方」と定義しました.アタリの合理的利他主義は,自己犠牲的な利他主義とは異なります.他者利益を追求した結果として自分にも利益が還元される — 合理的利他主義は,ある意味,合理的な「利己主義」とも言えます.
ChatGPTで調べると…
2025年7月9日現在,ChatGPT(GPT-4o model)に「合理的利他主義とは何ですか?」と質問すると,次のような回答が返ってきました.
合理的利他主義(英語: Effective Altruism)とは,限られた資源や時間の中で,他人の幸福や命を最大限に高めるために,理性と証拠に基づいて最善の方法を探し実行しようとする考え方や運動です.
尤もらしい回答に聞こえますが,違和感を感じる箇所かあります.それは,合理的利他主義の訳語が”effective altruism”となっている点です.Effective altruismは直訳すれば「効果的利他主義」です.合理的利他主義を直訳で英語にするなら”Rational altruism”とすれば良いはずです.
この違和感に気づいて,効果的利他主義やeffective altruism(あるいはrational altruism)でウェブ検索などを行い,いくつか文書にあたれば,上記ChatGPTの回答が合理的利他主義ではなく「効果的利他主義」(effective altruism)について言及していることが分かります.これに気づきさえすれば,ChatGPTに「効果的利他主義(effective altruism)ではなく合理的利他主義(rational altruism)を教えて」や「効果的利他主義と合理的利他主義の違いを教えて」と尋ねることで,(本来の正解である)合理的利他主義の定義を聞き出すことができるでしょう.
もっとも,今回の課題に関する知識に乏しい学生が,複数の説から独力で正解を見抜くことは難しいでしょう.しかし,日本語で書かれた平易な文章を理解することはできるでしょうし,日本語の出典を確認する過程で,「合理的利他主義」と「効果的利他主義」が別物であることに気付く力は十分に備わっているはずです.
生成AIで情報検索をする時代に必要な能力
ChatGPTをはじめとする対話型生成AIは,質問を投げかければ回答を手短にまとめてくれます.お願いすれば,より詳しい情報を提示してくれますし,文章を簡単にもしてくれます.一方,ChatGPTが登場する前に調べ物の定番ツールだったウェブ検索エンジンを用いた場合,欲しい情報を見つけるためにはウェブページを閲覧しなければなりません.うまく情報が見つけられなかった場合は検索ワードを修正する必要があります.1つのページでは情報が十分でない場合は,複数ページを閲覧して情報を集約する必要もあります.このようなウェブ検索に比べて,対話型生成AIは調べ物にかかるコストが圧倒的に小さいです.楽だし,融通が利くし,質問の意図もイイ感じにくみとってくれる対話型生成AIの便利さを知ってしまうと,「調べ物は生成AIでもういいよね」と思いたくなる気持ちも理解できます.
しかしながら,講義でも述べたように,生成AIの返す情報は常に正しいとは限りません(ハルシネーションの問題).また,仮に正しい回答を返すことができたとしても,正しい回答が複数存在する場合,生成AIはその一部しか提示しない場合もあります(情報の表示スペースの問題).回答生成時に利用した情報源の中では存在していた文脈情報も,AIが出力した回答からは失われてしまっている可能性もあります.このことを踏まえると,完璧に見える対話型生成AIの回答も,それを利用する人間の目で精査・吟味してみる必要があります.
今回特に印象的だったのは,生成AIに質問する際,「絶対に正しい回答(情報)を出力してほしい」という要求をした学生がいたことです.一人や二人ではありません.上で書いたように,生成AIは時に間違えます.人間もAIも「絶対に間違えないでほしい」と伝えたところで,間違えないことは「保証されません」.「間違えるな」と伝えても間違ってしまうことは往々にしてあります.
また,学生の中には「根拠となるような文献を提示してほしい」とお願いするも,実際には提示された文献に目を通していない(と思われる)人も散見されました.もし実際に文献を閲覧していたのであれば,効果的利他主義は合理的利他主義ではないことに気付くはずです.
これら2つの行動には,AIに対する過剰な信頼が暗黙的に反映されています.AIへの過剰な信頼からか,情報を精査・吟味するという行為も生成AIに完全に委譲されてしまっています.嘘をつく人に「嘘はつかないでね」と言えば嘘をつかれることはない — と考えるのは危険ですよね.生成AIに「間違えないで」と伝えて,回答をまったく吟味せず鵜呑みにするのは,短絡的です.生成AIが生成した間違えた回答を利用して損害を被っても,生成AIは責任を取ってくれません.責任を負うのは,最終的には人間です.
ウェブ検索エンジンを利用する際に人間が行っていた「情報の検索」「分析」「比較」「統合」のプロセスは,対話型生成AIを使えば一気にショートカットできます.人間に残されたプロセスは (1) (再)質問の生成(問いを考えること),(2) AIサービスが返す情報の評価,(3) 得られた情報を活用した新たな情報 or 意見の形成,となるでしょう.対話型生成AIは情報探索にかかる認知コストを大幅に減らすことはできますが,情報を活用した質の高い意思決定を行うには,人間がすべきことも依然として残っています.「情報の検索」「分析」「比較」「統合」が楽になった分,むしろ人間側に残されたプロセスの質を高めることが価値につながります.
そのために必要なことは,「質問する能力」「情報の価値を判断する能力」「知見を生み出す能力」といった”知的肺活量”を鍛えることです.大学の研究室(卒業研究 & 修士論文研究活動)は,”知的な筋トレ”ができる数少ない場所だったりします.意外かも知れませんが,大学卒業後,知的筋トレができる機会はほとんどありません.楽しく知的に生きるためにも,今後は生成AI時代に必要な知的スキルとは何かを意識し,知的肺活量を高めていってください.縁があってわたしの研究室に配属されることになったら,一緒に知的筋トレに励みましょう.
機械学習入門の講義資料を公開しました
名古屋市立大学データサイエンス学部で開講している講義「機械学習入門(機械学習発展の導入編)」の講義資料を下記URLに公開しました.ご関心のある方はご活用ください.
機械学習入門の講義ノート
箱ひげ図
2つのデータ分布から,同じ箱ひヒゲ図が現れる.
Again.2つのデータ分布から,同じ箱ひヒゲ図が現れる.
データはこちらから.以下のコードをPythonで実行すると,確かに3つのデータ分布から同じ箱ひげ図が生成されることが確認できる.最大値,最小値,中央値,Q1,Q3,平均値は限りなく同じである.
以下,上記コードの出力結果.
データベースの講義資料を公開しました
名古屋市立大学データサイエンス学部で開講している講義「データベース」の講義資料を下記URLに公開しました.ご関心のある方はご活用ください.
データベースの講義ノート
論文執筆のためのチェックリスト
今年も卒論シーズンがやってきた.静岡大学に移ってから数年経つが,年々学生数が増加し論文指導に首が回らなくなってきたため,明治大学の中村聡史先生の取り組みを参考に,論文執筆のためのチェックリストを作成してみた.チェックリストの中身も重要だが,これを使って学生同士でチェックし合ってからでないと教員はチェックしないという仕組みも重要かと思う.
作成したチェックリストは分量が多いので,様子を見ながら適宜内容を調整するようにしたい.
あなたがAIよりも優れている点をアピールせよ
スポットで講義をしている大学院の授業でレポート課題を課した.今回のレポートは学生に自分の頭で考えてほしかったので,考える系のレポートを出題した.以下レポート課題の内容である:
あなたは現在就職活動中であるとする.あなたは,採用人数が1名の企業を志望しており,この度その企業から最終面接に呼ばれたとする.事前情報によると,最終面接に残った応募者のうち,あなた以外はすべてAI(人工知能)であることが分かった.志望企業から内定を勝ち取るためには,「AIよりもあなたを採用した方が企業にとってメリットがある」ことを採用担当にアピールする必要がある.生産性の観点から,あなたがAIよりも優れている点を,A4用紙0.5〜1ページ程度でアピールせよ.
数十人の受講生から方向性も質も多種多様なレポートが寄せられた.対象とした業界についても,情報系大学院でもっとも就職する人が多いであろう情報サービスだけでなく,コンサルティング,マーケティング,製造業,菓子メーカー,芸能,保険,医療,介護,など様々な業界が取り上げられていた.
レポートとして一番の読みどころである「AIよりもあなたが優れている点」については,類型化すると下記のような主張が挙がった:
- 問題定義
- 機械学習に用いるデータの設計・準備
- フレーム問題への対処
- 人間(お客)との円滑なコミュニケーション(例:結果の説明)
- 少量のデータからのスキルや知識の学習
- ユーモア等の「創造性」
- 暗黙知の学習
- 人間との協調作業
- 倫理観
- AIそのものの設計,AIに電力を供給する(させない)
どれも学生に鍛錬して欲しい重要な能力だと思うが,いくつかの項目については,最先端の機械学習・人工知能研究のトピックだったりする.
計算機にユーモアを理解させる,あるいは生成させる研究は,自然言語処理で時々見かける.例えば以下のような論文.
- YANG, Diyi, et al. Humor recognition and humor anchor extraction. In: Proceedings of the 2015 Conference on Empirical Methods in Natural Language Processing (EMNLP). 2015. p. 2367-2376.
- ZHANG, Hang, et al. Let’s be Humorous: Knowledge Enhanced Humor Generation. In: Proceedings of the 58th Annual Meeting of the Association for
Computational Linguistics (ACL). 2020.
人工知能の倫理観についても盛んに研究されていて,自動運転車の倫理を扱ったMITのMoralMachineは代表的な研究.ブラックスボックスな機械学習技術によって得られた結果の説明については,Explanable AIというホットな研究分野が立ち上がっている.少量のデータからのスキル獲得については,(これからますます盛んになるであろう)強化学習という研究分野がある.
学生が思っている以上に,人間にしかできないと思われている処理を計算機ができるようになる可能性がある.社会に浸透するまでにはもう少し時間がかかるかもしれないが,使いどころをうまく決めることができれば,人間が行うタスクを人工知能技術によって置き換えられることは可能であろう.情報系学部で学ぶ学生には,
- 計算機は何ができるのか
- これまで人間が行ってきたタスクの中で,計算機で代替できる,代替すべきものは何なのか
- 計算機によるタスクの代替を行うには,どのような作業が必要なのか
などを考えられる人材になって欲しい.
研究室を検討されている学生さんへ(2019年度)
今年も研究室配属の季節がやってきました.山本にとっては静岡大学に来て3回目の研究室配属となります.昨年,一昨年の研究室選びでも述べてきましたが,研究室は大学の研究・教育活動の中心です.ところが,研究室によって研究教育のスタイル,生活スタイル,文化が大きく異なります.したがって,どこの研究室を選ぶかが学生の皆さんの
- 研究室生活における精神的充実
- 知識やスキル
- 思考方法や人間力
- 価値観の形成
- 人生設計(就職先・進路の選び方)
に大きく影響します.「たかが研究室選び」と思わず真剣に考えてみてください.なお,友達が「 XX先生の研究室は良いと思う」と言うからといって,自分もその研究室を選ぶという選び方はやめましょう.理想とする研究室の姿は,選ぶ学生(および研究室の主宰者)の価値観によって異なります.後述する視点を参考に,自分が研究室に何を求めているのかを考えてみてください.その上で,山本の研究室への配属を希望するか否かどうかを考えてみてください.
以下では研究室選びのポイント,および山本祐輔が主宰する研究室のポイントをお伝えします.
本記事を読み進める前に
以下の質問に答えてみてください.当研究室を希望する学生で、3つ以上の質問に「はい」と答えた方.当研究室はあなたの希望に合わないと思われます.2つ以下の方.当研究室の文化にマッチする可能性があります.どちらの方も以下の記事を読み進めて,当研究室へ配属希望を出すかをじっくり検討してみてください.
質問リスト
- できるだけ研究室に来ずに済むようにしたい
- できるだけ研究活動に時間を割きたくない(週20時間 < 3コマ×5日)
- できるだけ頭を使いたくない
- できるだけ簡単な研究テーマに取り組みたい
- 手取り足取り答えを教えてほしい
- 目標を立ててそれに向かって努力をするということをしたくない
- 研究を進めるための勉強はできるだけ避けたい
- 英語論文を読むのはできるだけ避けたい
- プログラミングはできるだけ避けたい
研究室選びのポイント
ここ2〜3年の研究室配属の様子を鑑みて,学生の皆さんに特に考えて欲しいと思った2,3点を研究室選びのポイントとして挙げます(他のポイントが気になる人は,「研究室を検討している学生のみなさんへ(2017年度,2018年度)」をご覧ください).
大前提:楽をして卒業したいか vs. 研究活動を頑張ってみたいか?
みなさんは,研究室を「大卒という資格を得るための最後の試練の場」として考えているでしょうか?それとも「研究活動を通じて知識・スキルを身につける場,面白い発明・面白い発見にチャレンジする場」と考えているでしょうか?どちらを重視するかは,研究室選択を考える上で重要な羅針盤となります.
静岡大学に限った話ではありませんが,楽に卒業させてくれる研究室も世の中には存在しています.大学の存在が「就職に向けた大卒資格を得るためだけの場」として認識している人が多くなってきている今日において,「できるだけ効率的に大卒資格を得たい.そのためには楽な研究室に入りたい」と思うことは,不思議なことではありません.(研究室の主宰者が公にするかはともかく)楽に卒業したいという願いを叶えてくれる研究室はきっと存在するので,もし楽をして卒業したいというのであれば,先輩などを通じて情報を仕入れてみてください.ちなみに後述しますが,当研究室は楽ではありません.
研究室選びのポイント1:研究内容
まず一番に考えて欲しいのは,研究室が行っている研究の内容が自分の興味と合うかです.研究を真面目に行っている研究室であれば,研究室主宰者(当研究室であれば山本)が
- どのような目的でどんな研究を行おうとしているか
- 具体的にどのような研究プロジェクトが行われているのか
に関する情報を提供してくれるはずです.それを参考にしながら,「これは面白い」と思える研究を行っている研究室を探してみてください.卒論であれば約1年,修論であれば約2年は(嫌でも)学生が主体的に研究に取り組むことになります.ですので,たとえ研究室の雰囲気が自分にマッチングしていたとしても,自分が興味のある研究でなければ気力が続かないと思います.
研究室選びのポイント2:コアタイム
コアタイムとは,(授業時間を除いて)研究室に滞在するべき時間帯のことを指します.例えば,「月から金曜日の朝10時から夕方5時までは研究室にいてください」といったように,学生が研究室に滞在すべき時間が設定されている場合があります.コアタイムが設定されているかは研究室によります.また,コアタイムの内容も研究室によって様々です.例えば,コアタイムを厳格に決めている研究室もあれば,「1日7時間は研究室にいてください.ただし,昼の1時から3時の間さえ研究室に来てくれれば,あとの5時間はどの時間帯(例:夜中)に研究室来て作業してもらっても構わない」といった設定の仕方をしている研究室もありえます.もちろん,コアタイムがない研究室もあります.
コアタイムには時間を拘束されるというデメリットが存在しますが,以下のようなメリットも存在します:
- 規則正しい生活を送ることができる
- コアタイムさえ守れば,その他の活動については自由
- (コアタイムには誰かが研究室にいるので)分からないことがあれば質問ができる
研究室選びのポイント3:学生の雰囲気
いったん研究室に配属されれば1年以上は同じ研究室で過ごすことになるので,研究室メンバー,特に学生の雰囲気は大事です.特に,研究時間内外で研究室メンバーとフランクなコミュニケーションがとれるかどうかは大事です.関連して,研究がうまく進まなかったときに気軽に相談できるか(後輩を指導してくれるか)なども大事な視点です.研究室を選ぶ際には,「学生が楽しそうにしているか」「先輩とのコミュニケーションはとりやすそうか」「 研究室生活は充実しているか」を確認するようにしましょう.
山本祐輔が主宰する研究室について
以下では,先の研究室選びのポイントに沿って,山本が主宰する研究室について記します.
研究の方向性について
1つの価値観に縛られた社会に未来はあるのでしょうか?価値観に縛られた社会はタコツボ化し,いずれはどん詰まりになり,前に進む力を失うことでしょう.既存の価値観では対応できない新たな問題が現れたとき,それを解決することはできないでしょう.また,価値観が固定化された社会は変化に乏しく,新鮮味・面白みにかけることでしょう.
活き活きとした未来をつくっていくために,現在の延長線上にある社会課題を解決していくことはもちろん重要です.しかし,僕はそれ以上に考えられうる未来のシナリオを増やすこと,すなわち「未来の多様性」を高めることが重要だと思っています.そのためには,未来をつくる人々,未来に生きる人々が変化・行動を起こすことに前向きになり,新たな価値観を生み出そうとするきっかけや環境が必要と考えます.
そこで,山本が主宰する研究室では以下のミッションを掲げて研究を行っています.
人々の思考の活性化,認知能力の拡張および前向きな態度・行動を促進する情報インタラクションデザインあるいはメディア表現に関する研究を行う
具体的には以下のような研究プロジェクトを行っています.
- 批判的情報探索を行うための情報インタラクション
- ウェブ情報の信ぴょう性
- 認知的情報検索
- 博物館・美術館の鑑賞体験を高めるための新しい情報インタラクション
- 忘却するウェブ環境
- ソーシャルデザイン × 情報インタラクション
- 創作活動を活性化させる情報インタラクション
研究活動のキーワード
以下は,当研究室で行っている研究活動の「学問的/技術的バックグラウンド」です.
- 情報学
- 情報検索・情報推薦
- 情報の信憑性
- Human-computer Interaction
- データマイニング,機械学習,統計的モデリング
- ウェブサイエンス
- 情報図書館学
- 心理学
- ヒューリスティックとバイアス
- 説得とヤル気の科学
- デザイン学
- 不便益,仕掛学,ナッジ
- 態度変容/行動変容
学生が行っている研究テーマ
これまで当研究室で学生が行ってきた研究テーマを以下に記します:
- 笑えるウェブ情報検索のためのクエリ推薦(2017年度生)
- 文章表現の曖昧さ指摘による情報精査の態度・行動促進(2017年度生)
- 情報の食わず嫌いを抑制する情報提示方法(2017年度生)
- 脚本の内容と構成要素に基づく映画印象推定(2017年度生)
- 珍スポット検索のためのランキング手法(2017年度生)
- 飲食店レビュー情報の集合知分析と意思決定支援(2017年度生)
- 物語文の具象性をフィードバックする文書作成インターフェース(2018年度生)
- ゲーム実況動画のハイライトシーン自動検出(2018年度生)
- 確証バイアスとウェブ検索行動の関係分析(2018年度生)
- ポジティブな文章の作成を促すナッジ(2018年度生)
- 学習用書籍の推薦のための観点抽出(2018年度生)
- SmileGlasses:笑顔形成を促進するARメガネ(2018年度生)
山本自身が筆頭で行っている研究プロジェクトの詳細については,山本の個人ウェブサイトをご覧ください.
研究活動の進め方
当研究室はがっつり研究をする研究室です.ガチです.以下ではどのように研究室活動を行っているかを記します.
研究テーマ
研究テーマは学生と相談しながら決めます.テーマ設定は比較的自由にできますし,学生が希望するなら教員から研究テーマを与えることも可能です.いずれにせよ,簡単に達成できるようなテーマは設定しません(例:すでに誰かが行っている研究を改良し精度をUPさせるような研究).ミッションに掲げたように,山本は未来社会の多様性を高めるべく,本気で「人々の思考の活性化,認知能力の拡張および前向きな態度・行動を促進する情報インタラクションデザインあるいはメディア表現に関する研究」を行おうとしています.チャレンジングなテーマを設定し,何か新しいことを世の中に出したい,と思う方はぜひ研究室に来てください.誰もやっていないことを研究するのは大変なことですが,達成したときは充実感がありますし,研究を通じてさまざまなスキルが磨かれます.なお,山本のスタンスとして,学生がスキルを磨き研究を進めるためであれば,サポートは惜しみません.求められれば積極的にサポートします.また,結果が出なかったとしても一生懸命やっている学生は評価します.
定例イベント
研究活動を進めるために,当研究室では以下のようなイベントを行っています.
- 定例研究会:週2回,1回あたり2時間
- ジャーナルクラブ(国際会議論文や和文学術論文誌を読んで、その内容紹介):週1回1時間
- 学生グループミーティング:週1回,1回あたり1時間程度
- プログラミング勉強会:週1回,1時間程度
また,年間を通じて他大学の研究室との合同研究会や学会発表を行っています.詳しいメニューについては「ある研究室の定例イベント & 年間スケジュール」をご参照ください.なお,土日・祝日,夏休み・春休みはきっちりと休みます.
コアタイムについて
今年度からは研究室にコアタイムを設ける予定です.いまのところ,月曜日から金曜日の13時〜17時をコアタイムとして設定する予定です.この時間帯は研究室に滞在してください(授業で研究室を離れることはOK).コアタイム中は研究に関連する活動を行ってもらいますが,やるべきことを済ませたら研究室で何をしてもらっても構いません.
※ コアタイムを設ける代わりに,時間帯を設定せずに週20時間は研究室に滞在することをルールとして設けることも検討しています(上記コアタイムとそう滞在時間はほぼ同じ).
大学院(修士課程)進学について
必須ではありませんが,特段の理由がないのであれば,大学院(修士課程)へ進学を推奨します(2017年度生は6名中3人が進学.2018年度生は6名中3人が進学予定).理由は以下の通りです:
- 卒論で取り組んだ研究をより面白く深めることができる
- 就職先の選択肢を増やしたり,より良い就職先を見つけることができる
- 将来やりたいことを実現するためのスキル・思考力を身につけられる
修士課程に進んだ方がよい理由については,「大学院博士前期課程(いわゆる修士課程)進学のすすめ」にその詳細を記しています.
どんな学生が当研究室を希望しない方がよいか?
これまで記した文章を読んでいただくと,当研究室は研究を割と真面目にやっている研究室,いわゆる「ガチ研究室」であることが少しは分かっていただけたかと思います.ということで,楽に卒業したい学生は当研究室への配属を希望しないことを強く推奨します.楽に卒業したいとはどういうことかが自分でも判断がつかない人は,以下の質問に答えてみてください.3つ以上の質問に「はい」と答えた学生については,当研究室では「楽に卒業したい」という人と見なします.当研究室への配属希望申請はご遠慮ください.
質問リスト
- できるだけ研究室に来ずに済むようにしたい
- できるだけ研究活動に時間を割きたくない(週20時間 < 3コマ×5日)
- できるだけ頭を使いたくない
- できるだけ簡単な研究テーマに取り組みたい
- 手取り足取り答えを教えてほしい
- 目標を立ててそれに向かって努力をするということをしたくない
- 研究を進めるための勉強はできるだけ避けたい
- 英語論文を読むのはできるだけ避けたい
- プログラミングはできるだけ避けたい
2019年度の卒業研究指導に向けて
DEIM2019をもって2018年度卒業生の卒論研究活動が終わった.また4月から2019年度生の卒論研究が始まる.
当然ではあるが,はじめて卒業研究に取り組む4年生は研究とは何か,卒業研究の合格基準は何か,そもそも卒業研究の目的は何かを知らない.昨年度は口頭では説明したがうまく理解してもらえたかどうか分からない.
この話は,学生には早い段階でしっかりと理解してもらうべきだと思い,「卒業研究を始める学部生へ」という記事を書いた.割ときつめに書いた箇所もあるが,この記事内容を踏まえた上で卒業研究に取り組んで欲しいな.
2017年度情報学方法論の受講者へ
静岡大学情報学部行動情報学科2年生のみなさん。本日のガイダンスによると、情報学方法論の授業は、いろいろな先生が情報学の方法論について60分間話をすることになっています。研究室を知ることも一応兼ねているそうですが、どんな話をするかは教員に任せられています。
そこでみなさんにお聞きします。どんな話を聞きたいですか?こちらのサイトにアクセスしてアンケートにお答えください。授業の参考にします。
候補トピック
研究室紹介:やまもとが行っている研究の一部を紹介します。
情報検索の仕組み:GoogleやYahoo!などのウェブ検索エンジン。どうやって情報を取得して、どうやって並び替えているのか?その仕組みについて解説します。
信頼できる情報システム:情報システムを有効に使ってもらうためには、情報システムの振る舞い、提供する情報に信頼性が備わっている必要があります。情報システムの信頼性とは何かについて解説します。
ヒューマンコンピューテーションとクラウドソーシング:データ集めや実験に協力してくれる人を探すのは大変ですよね。近年では、インターネットを通じて不特定多数の人に力を借りコンピューテーションを行う、クラウドソーシングという仕組みが注目されています。それを研究やサービス作りに活かす方法について解説します。
伝わる情報デザイン:同じような内容を伝えているはずなのに、伝えたいことが伝わらない情報デザインは何が悪いのか。プレゼンテーションのスライドのデザインから、デザイナでなくても伝わる情報デザインを行う方法を解説します。
アンケートサイトは以下:
https://goo.gl/forms/59Pxp6W30RRCFTg03