風評被害に苦しむ私:切り取り,編集され,ねじ曲げられて伝えられた声

先日,なぜか産経新聞から電話インタビューされた.後日編集された内容が産経新聞に掲載され,その内容が物議を起こしているようだ.山本はTwitterやら某掲示板サイト(例1例2)で激しく非難されている.

実際に発言した内容に非難・批判があるのなら受け入れる.しかし,山本の真意ではないことが新聞や某掲示板に掲載され,それに対して非難囂々なのはかなり気分が悪い.このページでは事実を伝えたい.

山本に対する誤解

Web上で山本について色々言われているが,間違っていること・誤解されていることについて先に整理しておく.

山本は「原発が危ない」という情報は間違いであると思っている

福島の原発に関しては実際に事故が起こっていることもあり,危険な状況であるのは明白である.一般論として「原発は危ない」かどうかは分からないのではないか.山本は(原発専門家ではないので)原発の安全性を議論することはできない.原発に危険性があるのは事実だと思う.しかし,専門家が努力をして原発のリスクを下げることは可能だと思うし,それに関する議論はもっと行われるべきだと思う.

山本は「ネット情報に詳しい」

山本の専門分野はウェブ情報検索,データマイニング,ウェブ情報の信憑性である.余計な情報を加えないで欲しい.自分からネット情報に詳しいとは言いたくもない.ネット情報に詳しい人なら世の中にたくさんいるだろう.

山本は「原発推進派である」

原発推進派でもないし原発反対派でもない.日本のエネルギー事情からすると原発を利用せざるを得ないのではないかと思う.原発はリスクもあるので,使わないでいいならそれに越したことはない.賛成か反対かなんていう二元論的な議論より先に,原発はどの程度リスクがあるのか,原発に変わるエネルギーをどう確保するか,日本人の生活スタイルと電力事情,など先に議論することはいくらでもあるはず.

山本は「早く教授になりたい」と思っている

つい最近特定助教になったばかりなので,指摘されるまで自分が教授になる事なんて考えてもいなかった.

山本は「御用学者」である

たかが特定助教で御用学者になれますかね?自らインタビューを申し込んではいない.ゴールデンウィークを実家で過ごしていたら突然産経新聞から電話が掛かってきただけ.初めて電話が掛かってきた.喜んでインタビューに応じたわけではない.「原発の風評被害がネット上に広がるのはどうしてですか」と問われたが.正直に「分かりません」と答えた.

以上がウェブ上で広まっている誤った記事内容に対する山本のコメントである.

山本が実際に語った内容とその伝播過程

山本は実際にインタビューで何を語ったのか,それがどう伝わったのか.忘れないうちに以下に書き記しておく.

(1)産経新聞記者による電話インタビュー

ゴールデンウィークを実家で過ごしていたら,突然産経新聞の記者から電話がかかってきた.電話の理由は以下の通り:

山本さんはインターネット上の信憑性に関する研究をしているとお聞きしました.現在,原発による風評被害が広まっていますが,どうしてこういう現象が起きるのでしょうか?ご意見を聞かせて欲しいです.

こう切り出されたが,正直なんとも答えようがなかったので「ちょっと分かりません」と正直に答えた.すると,記者はなんとか意見を頂けないかと言われたので,以下のことを話した:

  1. (原発情報に限らず一般的に)閲覧している情報に対して興味がない,あるいは知識が乏しい場合,表層的な手がかりをもとに情報の信憑性を判断してしまう,ということが社会心理学者の研究によって明らかにされている(Pettyらによって提唱されたELM理論).
  2. (原発情報に限らず一般的に)人は自分と関わりが深い人物から聞いた情報,自らの経験の中で得られた情報に対しては信憑性を強く感じる,という研究がある(B.J. Foggらによるreputed crediiblityやearned credibility).
  3. 近年ユーザがWeb上に自由に記事を書いたり,意見を述べたりできるようになったが,情報をアップロードしたり情報を転載したりする行為は,人に教えたいという気持ち(自慢パワー)が影響していることも大きい,と論じている人もいる(増井俊之さんの記事).
  4. 自分の研究について.ウェブ情報の信憑性を判断するための情報検索・データマイニング技術に関して.

以上の話は全て独立した話題として話したし,一般論として話したので原発の話題と絡めて話した訳でもない.以上4つのトピックについて話したところ,(僕の感覚では)記者は1個目の話に関心を持ったようで,これについては使わせてもらうかもといった感じだった.最後に,山本の所属について「京都大学大学院 情報学研究科 社会情報学専攻 特定助教」であることが確認されて,インタビューが終了した.

(2)産経新聞の記事に掲載される

5月5日の朝,Twitter上で山本の名前が出ていることに気付き,その内容から産経新聞に先日のインタビューの内容が掲載されたことを知る.ちなみに,産経新聞からは記事内容に対する確認もなかったし,インタビューをもとに記事を書いたという事後報告も受けていない.以下は産経新聞に掲載された記事の中から山本に関する発言箇所の抜粋である:

ネット情報に詳しい京都大大学院情報学研究科の山本祐輔特定助教(社会情報学)は「放射能に敏感で専門知識には乏しいネット利用者の場合、『原発は危ない』という表層的な情報に飛びついてしまう。自分はその情報を知っているという優越感からブログに転載し、連鎖していく」と話す。 from 産経新聞

読んでみるとインタビューで話した内容とは違う形で掲載されていることが分かった.しかも,原発反対という意見は良くない.反対派は不安を煽っているだけという文脈で山本のコメントが書かれている.インタビューの内容と上の記事の内容を比べてねじ曲げられた点を整理する:

  • 一般的な情報の信憑性の性質をインタビューで話したはずが,さも原発や放射能に関する情報の信憑性について話しているかのごとく記事が書かれてしまっている.
  • 「閲覧している情報に対して知識が乏しい場合,表層的な手がかりをもとに情報の信憑性を判断する傾向がある」と話したはずなのに,「閲覧している情報に対して知識が乏しい場合,表層的な情報に飛びついてしまう」と書かれてしまっている.
  • 山本は「原発は危ない」という情報が「表層的な情報である」と思っているかのごとく書かれている.
  • 山本が話した幾つかの話題が勝手につなぎ合わされて書かれている.

改めて記事を読んでみると,記者は記事内容のストーリーを予め持っていて,それに当てはまるようにインタビューで得た話を切り取り,組み合わせ,修正して記事を書いているとしか思えない.

(3)産経新聞の記事を見たインターネットユーザが様々な形で情報発信

しばらくすると,やたらTwitterのfollowerが増えていることに気付く.記事が掲載されたので色々な人が反応しているんだろうなと思いGoogleで「山本祐輔」で調べたところ,非難囂々の記事が.とんでもないことが書かれているではないか.某掲示板サイトには

山本祐輔特定助教「原発が危険というのは表層的、アホどもはマスコミ様を鵜呑みにしとけ」 @tricycle

というタイトルのスレッドまでできていた.さすがにこれには唖然とした.ここまで来るとインタビュー内容の原型が残っていない.こんなスレッドまで立てられたら「山本が飛んでも学者である」との文句が出るのも仕方がない.さすが某掲示板サイトということで,ホームページのアドレスやら顔写真など色々な情報が暴露されてしまった(Webに掲載されている情報ばかりなので問題ない).

ウェブのツール,特にTwitterなんかは恐ろしいほどの情報の伝播力を持っているので,山本を非難するコンテンツが大量にアップロードされているようだ.現在「山本祐輔 特定助教」でWeb検索を行うと悲しいくらいに非難のコメントがあることが分かる.ため息しか出ない…

最後に

今回このようなブログ記事を書いたのは,まさに風評被害が発生していく様を記録に残したいと思ったからである.

ウェブは情報を取得するのにも情報を発信するのにも非常に便利なツールとなっているが,それが仇となって知らないうちに誤った情報を鵜呑みにする危険性がある.一方で,新聞やテレビといった従来型のメディア情報も信用できるとは限らない.ある調査によるとウェブ情報に比べて新聞やテレビの情報は信用できると思っている人が多いという研究報告もなされている.今回の事例のように従来型のメディアもそれぞれに主義主張があって,それに沿う形でコンテンツを作成しているので,常に正確で客観的な内容が書かれているわけではないことに注意が必要だ.

信憑性の高い情報を獲得するためには,情報を発信する側も情報を受け取る側も気をつけなければならない.そこをなんとかサポートするシステムの実現こそが私山本の研究トピックである.

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください