スポットで講義をしている大学院の授業でレポート課題を課した.今回のレポートは学生に自分の頭で考えてほしかったので,考える系のレポートを出題した.以下レポート課題の内容である:
あなたは現在就職活動中であるとする.あなたは,採用人数が1名の企業を志望しており,この度その企業から最終面接に呼ばれたとする.事前情報によると,最終面接に残った応募者のうち,あなた以外はすべてAI(人工知能)であることが分かった.志望企業から内定を勝ち取るためには,「AIよりもあなたを採用した方が企業にとってメリットがある」ことを採用担当にアピールする必要がある.生産性の観点から,あなたがAIよりも優れている点を,A4用紙0.5〜1ページ程度でアピールせよ.
数十人の受講生から方向性も質も多種多様なレポートが寄せられた.対象とした業界についても,情報系大学院でもっとも就職する人が多いであろう情報サービスだけでなく,コンサルティング,マーケティング,製造業,菓子メーカー,芸能,保険,医療,介護,など様々な業界が取り上げられていた.
レポートとして一番の読みどころである「AIよりもあなたが優れている点」については,類型化すると下記のような主張が挙がった:
- 問題定義
- 機械学習に用いるデータの設計・準備
- フレーム問題への対処
- 人間(お客)との円滑なコミュニケーション(例:結果の説明)
- 少量のデータからのスキルや知識の学習
- ユーモア等の「創造性」
- 暗黙知の学習
- 人間との協調作業
- 倫理観
- AIそのものの設計,AIに電力を供給する(させない)
どれも学生に鍛錬して欲しい重要な能力だと思うが,いくつかの項目については,最先端の機械学習・人工知能研究のトピックだったりする.
計算機にユーモアを理解させる,あるいは生成させる研究は,自然言語処理で時々見かける.例えば以下のような論文.
- YANG, Diyi, et al. Humor recognition and humor anchor extraction. In: Proceedings of the 2015 Conference on Empirical Methods in Natural Language Processing (EMNLP). 2015. p. 2367-2376.
- ZHANG, Hang, et al. Let’s be Humorous: Knowledge Enhanced Humor Generation. In: Proceedings of the 58th Annual Meeting of the Association for
Computational Linguistics (ACL). 2020.
人工知能の倫理観についても盛んに研究されていて,自動運転車の倫理を扱ったMITのMoralMachineは代表的な研究.ブラックスボックスな機械学習技術によって得られた結果の説明については,Explanable AIというホットな研究分野が立ち上がっている.少量のデータからのスキル獲得については,(これからますます盛んになるであろう)強化学習という研究分野がある.
学生が思っている以上に,人間にしかできないと思われている処理を計算機ができるようになる可能性がある.社会に浸透するまでにはもう少し時間がかかるかもしれないが,使いどころをうまく決めることができれば,人間が行うタスクを人工知能技術によって置き換えられることは可能であろう.情報系学部で学ぶ学生には,
- 計算機は何ができるのか
- これまで人間が行ってきたタスクの中で,計算機で代替できる,代替すべきものは何なのか
- 計算機によるタスクの代替を行うには,どのような作業が必要なのか
などを考えられる人材になって欲しい.