落とされない申請書を作るための 「書き方以外」の要素

大学の研究支援関係の部署から科研費獲得セミナーで話題提供して欲しいとの依頼を受けた.書き方の話はURA時代に色々してきたので素材はあるのだが,書き方の話をしてもどうせよく似た話を聞き事になるだろうから今回は「書き方以外」の話をすることにした.せっかくなので,セミナーの資料をここで公開しておこうと思う.

大学教員の道に進む上で考えておくべき事

大学の就職支援関係の部署から,博士後期課程の学生向けの学内配布物に載せる記事の執筆依頼があった.お題は「アカデミアの道に進む上で考えておくべきこと」.紙面スペースが限られていたし,学内の博士後期課程学生にどぎついことを言うのも気が引けたので,以前ウェブにアップした「ポスドクとは何かと聞かれたら」よりも随分ソフトな文章になってしまった.内容も,一般的に良く知られていることなので,あまり目新しさもない.もう少しリアルに書いた方が良かったかな…

最終的に紙面にどう載るかは事務任せなので,オリジナル原稿をここに記しておく.

大学教員の道に進む上で考えておくべき事(ソフトな意見)

 

株式会社リバネスの雑誌インキュビーvol.53に掲載

株式会社リバネスの雑誌インキュビーvol.53にインタビュー記事が掲載された.内容は「研究の「師匠」を見つけよう〜研究室の選び方〜」.

リバネスさんは京都大学でリサーチアドミニストレータをやっていたときから注目してたが,まさかリサーチアドミニストレータを辞めた後,自分がコンテンツとして載るとは思っていなかった.不思議で貴重な体験であった.

僕のインタビュー記事はさておき,インキュビーは若手研究者のための研究キャリア発見のコンテンツがたくさん載っているので,興味のある人は一度手に取ってみるとよいでしょう(無料でダウンロード可).

研究室を検討されている学生さんへ(2021年度)

早いもので,今年も研究室配属の時期がやってきました.新型コロナウイルス問題で昨年度からほとんどの授業がオンライン化されてしまったため,今年研究室配属される学生の皆さんは対面で山本に一度も会うことなく研究室を選ぶことになります.

この記事は,山本あるいは山本の研究室に関する情報がほとんどない学生のみなさんにとって,多少なりとも研究室選びの参考にしてもらうためのものです.「研究室を検討している学生のみなさんへ」シリーズは2017年から毎年書いており,年を追うごとに記事がリッチになっています.そのため,今年はできるだけシンプルな内容にしています(したつもりです).過去の「研究室を検討している学生のみなさんへ」を読みたい学生さんは,こちらのリンクからご覧ください.

目次

  1. 研究室を選ぶポイント
  2. 山本の研究室の研究
  3. 山本の研究室に「来ない方がよい」学生
  4. コラム1: 好きなことはすぐには見つからない
  5. コラム2: 力をつけるには力を使う必要がある

1. 研究室を選ぶポイント

大学において,研究室は最も重要な要素です.どの研究室選ぶかによって大学生活の充実度が変わってきますし,学べる知識やスキルも変わってきます.どんな研究室で過ごすかによって,世の中の見方や人生に対する価値感も変わってくるでしょう.

以下では,ここ2〜3年の研究室配属の様子を鑑みて,学生の皆さんに特に考えて欲しいと思った研究室選びのポイントを3つ挙げます.

ポイント1: 楽をして卒業したいか vs. 研究を頑張ってみたいか

大学を卒業する上で避けて通れない卒業研究.大変そうに思えますが,卒業研究にどの程度の負荷がかかるかは研究室によって大きく異なります.(静岡大学に限った話ではありませんが)楽に卒業できる研究室も存在します.もし楽をして卒業したいというのであれば,研究室の先輩などを通じて「研究の負荷」に関する情報を仕入れてみてください.ちなみに当研究室は真面目にがっつり研究をします

ポイント2: 研究内容

レポート課題とは異なり,卒業研究はおおよそ1年をかけて取り組む活動です.(たとえ楽に卒業できる研究室であっても)まだ明らかになっていない答えを探す活動である「卒業研究」では,どの学生もうまくいかない時期が1度か2度はやってきます.このつらい時期は自分自身で乗り越えなければなりません.そんなとき,「関心のある/好きな研究テーマ」に取り組まなければ,歯を食いしばって前に進むこともできません.

知識や経験が乏しい学生にとって「真に興味を持てる研究テーマ」を見つけることは難しいことです.ですが,できるかぎり研究室の情報を集め「どんな研究テーマなら興味をもって続けられそうか」を自問自答してみてください.決して「友達があの研究室の研究は面白そうだと言っていたから」といった理由で決めないでください.

ポイント3: 学生の雰囲気

いったん研究室に配属されれば1年以上は同じ研究室で過ごすことになるので,研究室の雰囲気,研究室メンバーとの相性が大事になります.特に,研究時間内外で研究室メンバーとフランクなコミュニケーションがとれるかが,研究活動の成否や研究室での学びに大いに影響してきます.

研究室を選ぶ際には「指導教員との相性」「研究テーマ」に加えて,「学生が楽しそうにしているか」「先輩とのコミュニケーションはとりやすそうか」「 研究室生活は充実しているか」「先輩学生がどんなスキルや知識をもっているか」を確認するようにしましょう.そのためには,研究室説明会のような場で学生に話を聞くことも重要です.


2. 山本の研究室の研究

詳細は「研究室のビジョン・ミッション」に記していますが,山本の研究室では「情報技術による自動化・効率化が進む社会において,人間がより良い行動・意思決定,創造的活動ができるよう,人々に気づきを与え,じっくりと情報処理を行う機会を提供するアプリケーションの研究開発」を行っています.例えば,

  • 先入観に囚われない,注意深いウェブ情報探索
  • クリエイティブな作業・知識獲得活動を刺激する情報インタラクション
  • 内省・集中・共感のための情報インタラクション
  • じっくりとした活動を行うための精神的健康の促進

を行うためのアプリケーションの研究開発を行っています.研究室で取り組んでいる研究プロジェクト例については「研究ポートフォリオ」で確認できます.

上記研究テーマに取り組むために,情報検索,データマイニングや機械学習,HCI,ウェブサイエンスといった情報学の知見に加え,心理学,説得工学(行動変容技術),行動経済学といった分野の知見を取り入れながら研究を進めています.最終的にはアプリケーションの開発を目指していますが,学生のタイプや希望によって研究活動において「エンジニアリング」「データサイエンス」「デザイン」が占める割合が異なります.


3. 山本の研究室に「来ない方がよい」学生

当研究室は真面目に研究を行う研究室です.人間からより良い行動,慎重な意思決定,創造的活動を引き出すための新しいアプリケーションを生み出すために,真剣に研究に取り組んでいます.そのため,楽をして卒業をしたい学生には当研究室への配属を希望しないことを強く推奨します.また,既存の方法論にとらわれず新しい研究テーマに取り組んでいるため,主体的に学習・研究に取り組むことが苦手な学生,誰もやっていないテーマよりも流行の研究をやりたいという学生も幸せになれないと思います.

「当研究室への配属を希望しない方がよい学生かどうか」の判断の目安として,以下の質問を用意しました.これらの質問に3つ以上「はい」がつく学生は,研究室に配属されたとしても学生側も指導教員(山本)側も幸せになれない可能性が高いです.

質問リスト

  • 研究室に来ずに済むようにしたい
  • 研究活動に時間を割きたくない(週20時間 < 3コマ×5日)
  • 頭を使いたくない
  • 簡単な研究テーマに取り組みたい
  • 誰もやっていない研究よりも流行の研究がやりたい
  • 手取り足取り答えを教えてほしい
  • 目標を立ててそれに向かって努力をするということをしたくない
  • 研究を進めるための勉強はできるだけ避けたい
  • 英語論文を読むのは避けたい
  • プログラミングは避けたい

4. コラム1: 好きなことはすぐには見つからない

「天職を見つけよう」「やりたいことを見つけよう」という風潮がなんとなく広がっています.今を生きる学生のみなさんが「やりたいことを見つけなければならない圧力」を感じてしまっているのかは分かりませんが,大学における授業や研究活動に辟易してしまう学生を見ては思うことがあります.

  • これこそが天職だ!
  • やりたいことがついに見つかった!

という「運命の出逢い」はそうそう起きることではありません.積極的な(積極的に見える)学生の中には新しいことに手をつけては、すぐにギブアップして次の新しいことに目移りする学生がいます.そのような学生の行動を見ていると

  • 好きなことが見つからないのはそれを上手く探せていないからだ,
  • 未だ自分に見つかっていない「好きなこと」は世界のどこかにきっとある

と考え,運命の出逢いを求め永遠にさまよっているようにも思えてきます.

この記事では,研究室選びのポイントとして「自分が興味を持てる研究テーマに取り組んでいるかを考えること」を挙げました.このアドバイスを無碍にすることを言いますが,心の底から興味を持てることを見つけるのは簡単なことではありません.好きなことはそうすぐに見つかるものではないと思います.

学生の皆さんにとって好きなことがそう簡単に見つからない理由の1つは,好きと判断するための十分な知識や経験を持ち合わせていないからです.何を研究するか,何をテーマに働きたいか,人生を通じて何に取り組みたいかなど,深いレベルのテーマ/活動ほど本当に好き(になれる)かどうかに気づくのに時間とエネルギーが必要となるでしょう.そして,時間とエネルギーをかけて深く向き合った結果好きになったこと,あるいはそのプロセスは,大いなる人生の糧になってくれる,そう思うのです.

好きなことはすぐには見つかりません.「人生の真ん中に位置づけたくなるくらい」好きなことを見つけるためにも,ちょっと辛いことがあったとしても,簡単に切り捨てずじっくりと向き合ってみてください.モラトリアム期間である大学生活こそ,そうしてみる価値があると思います.


5. コラム2: 力をつけるには力を使う必要がある

「問題解決能力や問題発見能力を鍛えて欲しい」と言ってくれる学生がいることは大変嬉しいことなのですが,演習や研究活動の場で実際にそれらの能力を鍛える課題や議論をしかけると拒否反応を示す人がいます.考える力,プログラミングや数学などの道具を使う力,いわゆる知的肺活量を高める方法は,知識を身に付ける方法と異なります.暗記では対応できません.

当たり前のようで当たり前でないのかもしれませんが,力をつけるには力を使う必要があります.プログラミングができる人は,できない人よりもプログラミングにエネルギーをかけたからプログラミングができるのです.考える力がある人は,そうでない人よりも長い時間深くものごとを考えてきた結果,考える力がついたのです.知的肺活量を高めるにはそれなりの負荷をかけて知的活動を行うしかないのです。

研究活動は「知力の筋トレ」を行うには最適な場です.知識を習得することに重きをおいた学習に慣れ親しんだ学生にとって,頭を使う訓練へのシフトは戸惑いやストレスを感じることでしょう.少しずつでよいので慣れていきましょう.このシフトを行うことでできることが増えますし,皆さんの「世の中の物差し」が変わることでしょう.知力を高めたい学生さんは,適度な知的負荷を厭わずに,研究活動に励んでみてください.

関連コラム

情報検索タスクにおける評価指標を更新中

学生に検索タスクの設計を宿題として出すと「どんな指標があるのか知りたいです」と聞かれるのだが,ランキング指標や行動指標,アンケート指標など,色々な観点から用いるべき指標を検討する必要がある.自分でも実験を設計する度にどんな指標を用いるべきかを迷うことがあるので,以下にまとめてみた.徐々に更新する予定.

情報検索タスクにおける評価指標

 

高柳研究奨励賞を受賞

本日,浜松電子工学奨励会より高柳研究奨励賞を受賞しました.高柳研究奨励賞はテレビの父として有名な高柳健次郎氏に因んだ賞であり,静岡県及び静岡県に関連をもつ個人又は団体に対して,電子科学に関する将来有能な研究者の研究を助成する目的の賞(だそう)です.

受賞研究題目は「批判的なウェブ情報探索を促す情報インタラクションデザインに関する研究」で,電子科学ど真ん中の研究ではないのですが,受賞を励みにこれからも研究に励みたいと思います.

かけがえのない

「かけがえのない」という言葉は「かけがえ」がないという意味だろうが,そうであるならば「かけがえ」とはどういう意味でどんな漢字を書くのか,ふと気になった.

「かけがえのない」は代わりが利かないという意味だから,「かけがえ」は代替という意味だろう.そうならば,かけがえの「かえ」は「替え」だろう.では「かけ」はどんな漢字だろうか.思いつかない.

調べてみると,かけがえは「掛け替え」だそうだ.そしてその意味・語源は分からない,そうだ.

「かけがえのない」とは,意味がわからない言葉から成る言葉であった.

JCDL2020参加報告

2020年8月1日から5日までの間,オンラインにて開催された,ACM/IEEE Joint Conference on Digital Libraries (JCDL) 2020に参加してきました.JCDLは,デジタルライブラリに関する主要な国際会議です.一般的な計算機科学の国際会議との大きな違いは,研究者・技術者以外に図書館員の方も参加されているのが特徴的です.デジタルライブラリというと図書館をイメージしますが,JCDLでは情報検索やデータマイニング,HCI,デジタルヒューマニティーズ,インターネットプライバシなど,情報アクセスシステムの理論と実践にかかるトピックを幅広くカバーしています.

JCDL 2020は,当初6月中旬に中国は武漢で開催される予定でした.しかし,COVID-19の影響を受け,開催地がいったんは西安に変更され,最終的にはオンライン開催になりました.例年JCDLは北米,ヨーロッパ,アジアと世界中の様々な国から参加者が集まりますが,今年度は発表件数はFull paperが33件(採択率31%),Short paperが28件(採択率31%),ポスター・デモが48件とそれほど規模が大きくなかったため,実行委員会の配慮で地域ごとにセッションがまとめられました.そのおかげで,日中の時間帯に自身の発表が行うことができ,肉体的には楽でした.一方で,ヨーロッパや北米の方の発表の多くは,ヨーロッパ時間・北米時間の日中(日本時刻で深夜・早朝)に行われていたため,積極的に聴講することはなかなか難しかったです.オンラインでの学会開催の難しさを感じました.

本年度のJCDLは,以下のようなセッションがありました:Scholarly Communication,User in Search,Digital Libraries,Scholarly Knowledge,Document Classification,Natural Language Processing,Web Archive,Digital Humanities,Domain Specific Applications,Scholarly Data,Content Annotation,Search and Recommendation,Network and Learning,Neural Semantic Representation, Practitioner.ご覧の通り,幅広いトピックについて研究発表が行われたのですが,科学技術論文のコンテンツ・ネットワーク解析による知識獲得セッション(Scholarly X)が複数あることに目を引かれました.また,図書館員の方々が実践報告を行うPractitionerセッションにデジタルライブラリの学会らしさが感じられました.

私はUser in Searchというセッションで,下記発表を行いました:

Yusuke Yamamoto and Takehiro Yamamoto: “Personalization Finder: A Search Interface for Identifying and Self-controlling Web Search Personalization”. https://doi.org/10.1145/3383583.3398519

この研究では,ウェブ検索中のユーザがウェブ検索結果のパーソナライゼーションの影響を認識し,調整することを可能とする検索インタフェース“Personalization Finder”を提案しました.私の研究グループが事前に行ったユーザ意識調査では,ウェブ検索ユーザの多くは,意見の分極化の原因になりうるウェブ検索結果のパーソナライゼーションが政治トピックに対して行われることを懸念していることが明らかになりました.その一方,一般的なウェブ検索エンジンでは政治トピックに対する検索結果パーソナライゼーションが行われているにも関わらず,多くのユーザがそのようなパーソナライゼーションはあまり行われていないと思っていることも明らかになりました.この結果を踏まえ,自身が閲覧しているウェブ検索結果リストのうちパーソナライズされている結果をあえて可視化し,パーソナライゼーションによって逆に見えなくなってしまった結果を確認できるインタフェースを設計し,それらがユーザの検索行動に与える影響を分析しました.ユーザ実験の結果,特に政治トピックの検索時において,提案インタフェースを用いると,ユーザは客観的に情報を収集するべく,検索結果リストをより長く閲覧するようになり,より下位の検索結果を閲覧するようになることを明らかにしました.幸運なことに,本論文はBest Paper Awardに選ばれました.

JCDL2020に参加報告の執筆依頼をいただいた際,トップカンファレンスに採録されるための工夫・苦労した点について記してほしいとのご要望をいただきました.採録のための秘訣についてはこれまでも優れた研究者の方々が語ってくださっていますし,私自身はそれを語れるほどの経験はありません.ですので,大層なことは言えませんが,「不採択を恐れずトップカンファレンスに論文を投稿して,査読者から有益なフィードバックをもらうこと」は有効だと思います.

トップカンファレンスは査読者の質も相対的に高いため,論文を改善したり,研究をより良い方向に進めるために有益なフィードバックがたくさん得られます.実は今回の採択された論文は, ACM CHIという別のトップカンファレンスに投稿して不採択になった論文をブラッシュアップして再投稿したものです.レビューコメントは大変痛烈で,不採録判定による傷心状態で読むのは気が滅入ります.しかし,数日寝かせて読み直すと,どのコメントも鋭く的を得ているものばかりでした.それを改善すれば確実に研究が進展します.おかげさまで,レビューで指摘された穴を一個一個つぶしてアップデートした論文は,JCDL 2020に採択されました.不採録通知を受け取ることはショックですが,採択率からすると大抵のひとにとって不採録はデフォルトです.良質なレビューコメントをもらって論文と研究をアップデートし,めげずに投稿し続けることが,ターゲットとする国際会議に論文を通す近道だと,リジェクトの結果に凹んでは自分に言い聞かせています.

 

わたしは鼻があまりきかない.他の人が感じている匂いを感じられていないことはしばしば.自分の鼻のききが悪いことに気付いたのは,結婚して妻と生活するようになってからであった.

周りの人と同じ世界を認識していたつもりが,実はそうではなかったのである.とはいえ,鼻のききが悪いことに不自由はしていない.まったく匂いを感じれないわけではないし,匂いのもとと距離を詰めれば,それなりに匂いを感じることはできる.

自分の感じる匂いが果たして正しい匂いなのか,他の人が感じる「真」の匂いが一体どんなものか,気になることも多少はある.けれども,そのことに悲観はしていない.むしろ,受け取る嗅覚情報が他者とずれているにもかかわらず,これまで不自由も問題もなく生きてこられたことに驚きを感じるのである.