たまたまD.A. Norman氏が記した”Human-Centered Design Considered Harmful”(日本語訳はコチラ)という記事を見かけた。最近デザインについて考えることが多かったし、個人的に「人間中心設計」には複雑な思いがあったので読んでみた。
人間中心設計といえば、D.Norman氏が「The Psychology of Everyday Things: 誰のためのデザイン(1988年)」の中で触れている概念。人間のニーズ、能力、行動を取り上げ、それからそのニーズ、能力、高津に合わせてデザインを行う考え方とされている。Norman氏が有害だとしているのは、個別のユーザに焦点を当てて(当てすぎて)デザインすると、
- 焦点を当てられなかった他のユーザには事態が悪化するデザインになりかねない
- デザインにまとまりがなくなり複雑さが増す
- 特定の場面(タスク)の支援になり、タスクを通じて達成したかった活動そのもののを支援する力が弱まる
という問題が生じるということ。なので、人間ではなく「行動」を中心としたデザイン(Activity-Centered Design)がより重要とNorman氏は主張する。
この記事を読んで気づいたのは、僕がデザイン思考関連の活動の中で自分なりに解釈した「人間中心デザイン」がNorman氏の主張する「行動中心デザイン」だったことである。デザイン思考で陥りそうな罠は、ユーザの理解が表層的になりデザインコンセプトが非常に浅くなること、ユーザのニーズに迎合してしまうこと。これはNorman氏が述べている人間中心デザインの有害な点に通ずるところがある。本来解決したかった問題を解くためには、一歩引いてユーザの深いニーズあるいは価値観、振る舞いを捉えなおすことが必要、ということを改めてNorman氏は伝えたかったのではないか。
ところで、人間中心デザインも行動中心デザインも、そしてデザイン思考も、問題をより良く解決するための姿勢と見なせる。一方で、社会の問題を解決したり、多様性のある未来社会を築いていくためには、どうやって問題を解決するかではなく、何を問題とするか、問題提起そのものが重要だ。人間中心デザインや行動中心デザインも、いったん問題が設定されれば、それを上手に解くための考え方として有効に活用できるであろう。しかし、問題提起となると別の話だ。何を問題とすべきか、今の技術偏重社会においてこそ最も真剣に考えるべき問題なのではなかろうか。