信頼性とコンピュータ

情報学の分野で情報の信憑性を調べていると、必ず名前が出てくるのはスタンフォード大学のB.J. Fogg氏。学生時代はFogg氏の論文や書籍を読んでは信憑性に関する理解を深めてきた。

信憑性あるいは信頼性に関する文献はいろいろある。このトピックに関する研究は、50年以上前に心理学やコミュニケーションの分野から始まった。一方、情報の信憑性やウェブサイトの信頼性に関しては、Fogg氏の研究にまず当たるのが良いと思う。どんな知見があるか手っ取り早く知りたい場合、Fogg氏の著作「実験心理学が教える人を動かすテクノロジ」を読むのが良いと思う。

以下は「実験心理学が教える人を動かすテクノロジ」の第6章「信頼とコンピュータ」を簡単にまとめたものである(一部、別のソースからの引用も入れている)。


信頼性(credibility)の定義

  • 信頼とは、ある人や物を高く評価してすべて任せられるという気持ちを抱くこと(大辞林
  • Credibility comprises the objective and subjective components of the believability of a source or message (Wikipedia).
  • 信頼性(credibility)とは、信用性(trustworthiness)と専門性(expertise)という2つ側面から構成される。信頼性は認知可能な性質であり、対象物、人間、情報などの中に存在する性質の一つではない。
  • 最も信頼できる情報源とは、高い信用性と専門性の両方を兼ね備えていると認知される情報源である。 
  • 情報源の信頼性が低いと、その情報を手にする人に対する影響力は低くなる(source credibility)(※1)
  • コンピュータ・テクノロジの短い歴史の中で、人々はコンピュータを信頼できる存在と見なしてきた(※2)。コンピュータの信頼性を考える上でも、心理学やコミュニケーション学で信頼性研究の知見は有用である。

 

信用性(trustworthiness)の原理

信用性(trustworthiness)とは、情報源から認知される優良性や道徳性を表している。正直、公正、偏見を持って判断しないと見なされると信用性が高まり、信頼性が高まる。

信用できると認知させる要因

  • 公正で偏りのない情報源であること(※3)
  • 自分自身の興味やりがいの対象に反する情報を提供すること(※4):一般的に情報源が明らかに正直であることが分かると、その情報源の信頼性は高まる
  • 類似性が感じられること(※5)
  • 自らの些細な欠点を認めることで、逆説的に信頼性を得ることもある
    • 弱点や偏見など自分飯降になるような情報をさらけ出す効果に関する研究(※4)
    • 自ウェブサイトの偏見性をさらけ出したウェブサイトは、例えそのサイトが極端な意見を持っていたとしても、道理にかなったサイトであると思わせることもある(※9)

専門性(expertise)の原理

専門性(expertise)とは、認知可能な情報源の知識、スキル、経験の程度を表す。専門性を備えていると見なされると、信頼性が高まる。

 

信頼性の4分類

仮定型の信頼性(presumed credibility)

  • 自分の心の中にある一般的な家庭や固定観念に従って決まる信頼性

外見型の信頼性(surface credibility)

  • 外見上の特徴の第一印象に基づいて判断される信頼性。信頼性の初期評価は外見上の特徴から行われることがある
  • ユーザに製品を選択させる唯一のチャンスが見た目である状況においては、外見型の信頼性が特に重要となることがある。
  • ウェブを閲覧して情報を探す人たちは、外見型の信頼性に欠けるサイトからは素早く立ち去る可能性が高い(※6)
  • コンピュータ製品が見た目に心地よいと感じたとき、ユーザが期待していた良い結果を確認できたとき、強力なモノであるという一端を見せたときなどに、信頼性があると認知されやすい傾向がある(※7)

評判型の信頼性(reputed credibility)

  • 人、メディア、機関など第三者からの報告に基づいて判断される信頼性 * 第三者からの保証、特に評判の良い情報源による保証や照会によって、評判型の信頼性は高まる
  • ウェブサイトの信頼性は、そのサイトが賞を受賞すると高くなることが分かっている(例:Webby賞)

獲得型の信頼性(earned credibility)

  • ユーザの期待に応えることによって形成される信頼性
  • 長期にわたりユーザの期待に応え続けることで、獲得型の信頼性は揺るぎないものになり、簡単には変えられないユーザの態度や姿勢を形成する。

 

信頼性のダイナミズム

  • 情報源の信頼性がある一つの側面については高いといえるが、別の側面については分からない場合、ハロー効果(Halo Effect)により、信頼できると見なしてしまうことがある
  • ある側面の信頼性が低いと分かると、別の側面の信頼性が高いか低いにかかわらず、全体としての信頼性は低下する
  • ユーザが正しいと思う情報を提供すると情報システムの信頼性は高まる。逆にユーザーが正しくないと思う情報を提供すると信頼性は低下する
  • いったん信頼性を失うと、取り戻すことは難しい
  • 信頼性の低下に大きな影響を与えるのは、誤りの大きさではなく誤りの重大性である(例:カーナビの誤り率に関する研究 ※8)
  • 長期間にわたって正確な情報を提供し続けることで失った信頼性を取り戻せる可能性がある

 

信頼性評価に関する誤り

  • 「情報システムの出力における誤りの有無」と「システムに対するユーザの信頼性の有無」の組み合わせを考えると、「疑いすぎによる評価誤り」と「騙されることによる評価誤り」の2種類の誤りカテゴリを考えることができる。
  • 「騙されることによる評価誤り」に注目が集まることが多いが、情報システムの設計者・提供者は「ユーザーが疑いすぎることによる評価誤り」が生じないように注意する必要がある。

 


参考文献

  1. Hovland, C. I., & Weiss, W. (1951). The influence of source credibility on communication effectiveness. Public opinion quarterly, 15(4), 635-650.
  2. Andrews, L. W., & Gutkin, T. B. (1991). The effects of human versus computer authorship on consumers’ perceptions of psychological reports. Computers in human behavior, 7(4), 311-317.
  3. Stacks, D. W., & Salwen, M. B. (Eds.). (2014). An integrated approach to communication theory and research. Routledge.
  4. Walster, E., Aronson, E., & Abrahams, D. (1966). On increasing the persuasiveness of a low prestige communicator. Journal of Experimental Social Psychology, 2(4), 325-342.
  5. Stiff, J. B., & Mongeau, P. A. (2016). Persuasive communication. Guilford Publications.
  6. Lindgaard, G., Dudek, C., Sen, D., Sumegi, L., & Noonan, P. (2011). An exploration of relations between visual appeal, trustworthiness and perceived usability of homepages. ACM Transactions on Computer-Human Interaction (TOCHI), 18(1), 1.
  7. Fogg, B. J., & Tseng, H. (1999, May). The elements of computer credibility. In Proceedings of the SIGCHI conference on Human Factors in Computing Systems (pp. 80-87). ACM.
  8. Kantowitz, B. H., Hanowski, R. J., & Kantowitz, S. C. (1997). Driver acceptance of unreliable traffic information in familiar and unfamiliar settings. Human Factors: The Journal of the Human Factors and Ergonomics Society, 39(2), 164-176.
  9. McDonald, M. (1999). Cyberhate: Extending persuasive techniques of low credibility sources to the World Wide Web. Advertising and the world wide web, 15, 149-157.

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