[論文読み] The Language that Gets People to Give: Phrases that Predict Success on Kickstarter

出典:Tanushree Mitra and Eric Gilbert: The language that gets people to give: phrases that predict success on kickstarter. In Proceedings of the 17th ACM conference on Computer supported cooperative work & social computing (CSCW ’14), pp. 49–61 (2014).

URA時代に見つけて概要と図表くらいしか読んでなかったが,最近学生が始めた研究の進め方に参考になりそうだったので,引っ張ってざっと読んでみた.

概要

この論文では,KickstarterなどのAll-or-nothing型のクラウドファンディングにおいて,融資達成の成否と広報の文言との関係を分析.Kickstarterで融資募集された45000件のプロジェクトの紹介ページの内容とプロジェクトの成否(融資が満額達成されたか)との関係分析した結果,融資が達成されたプロジェクトでは,返報性の原理や希少性アピールなど,説得的心理作用をもつ文言をもってプロジェクトが紹介されていることが多いことを明らかにした.

研究のウリ

スモールビジネスを成功させる方法として活用が広がりつつクラウドファンディングにおいて,融資を成功させる広報文の具体的な特徴を,自然言語解析と説得コミュケーションの観点から明らかにした点.

既存研究の問題点

社会学的な観点からクラウドファンディングが普及しつつある理由を分析する研究,機械学習的なアプローチによってプロジェクトの成否を予測する研究は行われている.しかし,プロジェクトを成功に導く具体的な方法論をコンピュテーショナルに分析,検討した研究事例は少ない.

分析方法

クラウドファンディングサイトの最大手であるKickstarterのプロジェクトページをクローリングし,45000件のデータを取得.取得したデータは,融資目標金額やビデオの有無等のプロジェクトの定量的な情報に加えて,プロジェクト紹介文と融資者への返礼に関する記述が含まれる.

取得したテキストデータをuni-gram,bi-gram,tri-gramデータに変換.汎用的な言語特徴を取得するために,50回以上出現し,かつすべてのカテゴリに出現する20391フレーズのみ分析の対象とした.

上記フレーズ情報(20391種類)および融資目標金額,ビデオの有無,コメント数,更新回数等の定量情報(59種類)を説明変数に,プロジェクトの成否を目的変数として正則化ロジスティック回帰モデルを構築.

結果

  • 定量情報のみを用いるよりも,言語情報を併せて利用した方が推定性能は高い(Error rate 17% vs 2.4%).
  • 定量情報の中では図やイラストの有無の寄与率が高い(表5)が,定量情報よりも言語情報の方が予測寄与度が高い(beta coefficient)
プロジェクト成功の予測に対する非言語要因の影響度(偏回帰係数).論文の表5を引用.
プロジェクト成功の予測に対する非言語要因の影響度(偏回帰係数).論文の表5を引用.
  • 融資者に対する便益の返報を強調するフレーズ(例:also receive twoやwe can afford),希少性を協調するフレーズ(例:option is …や you are being given the chance),社会的証明を刺激するフレーズ(例:X have pledged),共同体意識を刺激するフレーズ(例:accessible to the X community)などは,プロジェクト成功につながりやすい(図6).
成功プロジェクトに特徴的に出現するフレーズ"pledgers will"の言語パターン・論文の図6を引用.
成功プロジェクトに特徴的に出現するフレーズ”pledgers will”の言語パターン・論文の図6を引用.
  • 消極性をにじませるフレーズ(例:not been able),不確実性をにじませるフレーズ(例:possibly hope to get)は,プロジェクト失敗につながりやすい

感想

単なる大規模言語解析に留まらず,得られた結果に対して社会心理学的な解釈を与えている点が面白いが,この知見を今後どう利用するのかポイントか.

イントロに書かれているようにスモールビジネスにはクラウドファンディングは有益だし,その手のビジネスに関わる人は広報のテクニックに習熟しているわけではない.プロジェクト自体は有意義にもかかわらず,プレゼンテーションで失敗しているのは大変もったいないので,そういう人々に「伝えるための方法論」を磨く機会を提供することは重要である.

だからといって,この研究で明らかになったフレーズを使って説明文を書けば,プロジェクト達成できると思い込むのは浅はか.投資を説得するためのテクニックは必要であるが,how-toの背後にある哲学を押さえなければ,言葉は上滑りする.この論文の表層的な知見に振り回される人が出てこないことを望む.人を動かすには,伝え方だけでなく,中身を充実させることも重要であることは言うまでもない.