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一般的に「情報の信憑性 = 情報の正しさ,真偽」と捉えられがち.しかし1950年代から社会学の分野で行われてきた信憑性研究によると「信憑性は情報を受け取る人によって認知される特性」であると述べられている.
信憑性研究にこだわってきた僕は,「情報の信憑性っていうのはそれを受け取る人によって基準が違う.だからある人にとっては信用できる情報でも別の人にとっては全く信用できないってこともありえる」ということをここ1年間ずっと言い続けてきた.だけど,僕の周りの情報科学屋さんにとってはきちんと計算モデルに表せないふにゃふにゃした定義はお気に召さなかった.よく分からない計算モデルを作ってそれを信憑性分析方法だと主張する.信憑性が重要になりそうなドメインを絞り込んで,”正解”セットベースの評価をして精度 X %が出ました,的な話ができれば信憑性研究としてはメデタシメデタシ,というのが彼等のスタイル.
最近のウェブ研究でもTrustというキーワードがSNSや推薦の文脈でちらほら出てくる.これに関しても「信憑性とは○○の要素をみたす」と定義してそれを計算モデル化して評価するものがほとんど.これらの研究では「著者が”勝手に思い込んでいる”信憑性基準 = みんなにとっての信憑性基準」 になってしまっている.これでは本質的に信憑性を扱えない.こういう考えのもとで作られたシステムを使った場合,ユーザには押し付けの分析結果が出されるだけで,ユーザは各々にとって信憑性があると感じられる情報を取得できない(と思う).
“自称”信憑性研究者である僕は,情報学研究に社会学の要素を取り込み,真に信憑性指向の情報検索を実現したかった.色々なことがあってなかなか手をつけられなかったが,ようやくこの論文で取り組み始めれたなかなぁと思う.全然時間をかけることができなかったが博士課程の研究の中で一番好きな研究だ.